水素で大型商船は動くのか?川崎重工・ジャパンエンジン、実船へ進むMHFSの全貌

水素で大型商船は動くのか
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水素で大型商船は本当に動くのか

水素は燃やしてもCO2を排出しない燃料として期待されています。しかし、液化水素を大型商船に積み、長距離を走らせるとなると、話は単純ではありません。

燃料を安全に貯蔵し、船内で気化させ、エンジンへ安定供給する仕組みが必要です。さらに、主機関は荒天や長時間運航でも止まってはいけません。水素船の実用化には、エンジン、燃料タンク、供給配管、船体設計、造船、運航、認証を一体で成立させる必要があります。

その実船実証に向け、日本の企業群が具体的な段階へ進んでいます。

大型商船用エンジンで水素混焼率95%超

ジャパンエンジンコーポレーションは2026年3月、実船へ搭載するフルスケールの大型低速2ストロークエンジン「6UEC35LSGH」で、水素燃料による陸上運転を開始したと発表しました。

同社によると、100%負荷で水素混焼率95%以上に到達し、GHG削減と安定運転を確認しています。主機関は船を動かす中心装置です。小型船や港湾内の短距離船ではなく、長距離・長時間・高出力の運航を想定した大型商船の主機関で水素燃料運転を進めている点が、この案件の重要性です。

ただし、これは実船での商業運航ではありません。現時点は陸上での性能最適化と耐久性検証を進める段階です。

川崎重工が担うMHFSとは何か

水素燃料船では、エンジンが完成しても、それだけでは運航できません。液化水素を安全に積み、必要な状態に変換してエンジンへ送る仕組みが必要です。

この役割を担うのが、川崎重工業が開発・製造するMHFSです。MHFSはMarine Hydrogen Fuel Systemの略で、舶用水素燃料タンクおよび燃料供給システムを指します。

川崎重工業は、液化水素を貯蔵・ガス化し、高圧または低圧で各社のエンジンへ供給する陸上試験設備を製造しました。水素を「燃料として使える状態にする技術」は、エンジン技術と同じくらい重要です。

2027年に出荷、2028年度から実船実証へ

ジャパンエンジンの水素燃料主機関は、2027年1月に出荷される予定です。尾道造船が設計・建造する1万7,500重量トン型の水素燃料多目的船へ搭載し、川崎重工業製のMHFSも同船へ組み込まれます。

実証船は、2028年度から3年間にわたり、商船三井と商船三井ドライバルクの運航管理のもとで実証運航に入る予定です。日本海事協会は、安全性に関する評価を開発から運航までの各段階で行います。

つまりこのプロジェクトは、研究設備の試験ではなく、主機関、燃料供給設備、造船所、海運会社、船級協会がそろった実船プロジェクトへ移行しつつあります。

日本の海事産業をつなぐ構図

このプロジェクトには、複数の役割が存在します。

川崎重工業は、液化水素とMHFSを中心とした燃料供給側です。ジャパンエンジンコーポレーションは大型低速2ストローク主機関、ヤンマーパワーソリューションは中速4ストロークエンジンを担当します。尾道造船は船体への統合、商船三井グループは運航、日本海事協会は安全評価を担います。

これは、単独企業が水素エンジンを売る構図ではありません。日本の重工業、エンジン、造船、海運、認証が連携し、外航商船の脱炭素化を成立させようとする構図です。

ここから先は推測を含みますが、実証船で一定の安全性と経済性を示せれば、日本企業はエンジン単体ではなく、燃料供給設備、船体設計、運航支援を含む「水素燃料船の導入パッケージ」を海外船主へ提案できる可能性があります。

技術が進んでも、事業化は別の課題

一方で、水素燃料船がすぐに商用受注へ広がるとは限りません。

最大の課題は、液化水素をどこで、いくらで、安定供給できるかです。燃料補給港の設備、燃料価格、船内タンクによる貨物スペースの減少、保険、規制、荷主が負担できる運賃を成立させなければなりません。

エンジンの水素混焼率95%超は重要な成果ですが、輸送コストと燃料供給まで含めて経済性を証明して初めて、商船の標準仕様になり得ます。

注目すべき次の進展

今後は、次の発表が重要になります。

  • 2027年1月予定の主機関出荷
  • 実証船の起工・進水・MHFS搭載
  • 液化水素の供給方法と燃料補給港
  • 海上試運転の開始時期
  • 2028年度予定の実証運航開始
  • 3年間の運航で得られる燃費、安全性、稼働率、コスト
  • 実証後の商用船受注と横展開

水素で大型商船を動かす挑戦は、まだ商用化の入口です。しかし現在は、構想ではなく、実船へエンジンと燃料供給設備を載せる段階まで進んでいます。

未来産業地図では、舶用水素エンジン、MHFS、実証船の建造、燃料供給、商船三井グループによる運航実証、そして商用受注への進展を継続して追跡します。

参考資料

注意事項

本記事は、公開資料をもとに、企業、技術、プロジェクトの関係を分析したものです。実証運航や商用化の時期は、各社の計画にもとづく目標で、実現を保証するものではありません。

当サイトは情報提供を目的としており、特定の金融商品や企業への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

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この記事を書いた人

趣味を兼ねた骨董品の売買を経て、株式やFXなどの投資に関心を持つようになりました。

投資先を考える根拠として日本企業の技術を調べる中で、見つけた情報とその後の進展を記録する必要性を感じ、AIの力を借りて「未来産業地図」を制作。

技術・企業・プロジェクトを結び付け、研究、実証、量産、商用化までの動きを継続して追跡しています。

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