使用済みEV電池を日本の新たな鉱山にできるか
電気自動車の普及には、大量のリチウムイオン電池が必要です。
その電池には、リチウム、ニッケル、コバルト、銅などの金属が使用されています。
しかし、日本はこれらの資源の多くを海外に依存しています。
鉱山が存在する国、精錬を担う国、電池材料を加工する国が限られているため、国際情勢の悪化、輸出規制、資源価格の上昇、物流の混乱が起きれば、日本の自動車産業や電池産業にも影響します。
そこで注目されるのが、使用済みEV電池を新たな資源として利用する電池リサイクルです。
住友金属鉱山は、使用済み電池から金属を回収するだけでなく、再び電池材料へ戻す「Battery to Battery」の水平リサイクルを進めています。
「国内初」とは何が初めてなのか
住友金属鉱山は2017年から、使用済みリチウムイオン電池や電池製造時に発生する中間物から、銅とニッケルを回収しています。
回収されたニッケルは同社の磯浦工場で正極材に加工され、新しいリチウムイオン電池へ使用されます。
同社が国内で初めて実現したのは、使用済み電池から回収したニッケルを、再び電池用正極材へ戻すBattery to Batteryの水平リサイクルです。
日本で初めてEV電池を回収したという意味でも、あらゆる金属を含む完全な商業リサイクルをすでに開始したという意味でもありません。
この違いは、記事を読むうえで重要です。
銅・ニッケルだけでなくコバルトとリチウムも回収
住友金属鉱山は、既存の銅・ニッケル回収に加え、コバルトとリチウムを回収する統合プロセスの開発を進めています。
使用済み電池は、発火しないように前処理したうえで、破砕・選別されます。
住友金属鉱山は、銅製錬で使用してきた乾式製錬と、ニッケルの湿式精錬を組み合わせて金属を分離します。
コバルトについては、正極材原料として使用できる純度まで回収できることを2021年に実証しました。
一方、リチウムは乾式処理時にスラグへ移行しやすく、電池材料として再利用できる純度で回収することが難しい金属です。
この課題に対し、関東電化工業が持つリチウム化合物の製造技術を組み合わせます。
両社は、スラグから高純度リチウム化合物を回収し、電池材料へ戻す技術を開発しました。
年間1万トンのプレ商業プラントへ
住友金属鉱山は、愛媛県西条市の東予工場と、新居浜市のニッケル工場にリサイクル設備を構築しています。
計画する処理能力は、リチウムイオン電池のセル換算で年間約1万トンです。
これは研究室レベルの少量試験ではなく、商業化を見据えた規模です。
経済産業省が2026年6月2日に公表した資料では、住友金属鉱山と関東電化工業が、中規模実証設備を構築している段階とされています。
目標とされている回収率は、リチウム70%、ニッケル・コバルト95%です。
ただし、これらは目標値です。
設備を大型化した状態で、品質、回収率、コスト、連続稼働を実証できるかは、これから確認されます。
完成・本格稼働はまだ確認できない
住友金属鉱山は2024年のプラント建設発表で、2026年6月の完成を予定していました。
その後の会社資料では、2026年度にプレ商業プラントの試運転と操業を開始する方針が示されています。
一方、現在確認できる公式資料では、プラントが完成して本格的な商業処理を開始したという発表や、実際の処理量は確認できません。
したがって、「年間1万トンの量産が始まった」と表現するのは早過ぎます。
現在は、設備構築から試運転、スケールアップ実証へ移行する段階です。
なぜ電池リサイクルが資源安全保障になるのか
電池材料は、一度使用したら消えてしまうわけではありません。
適切に回収できれば、ニッケル、コバルト、リチウム、銅を新しい電池の材料として再使用できます。
使用済み電池が国内で継続的に発生するようになれば、鉱山から輸入する資源の一部を、国内に蓄積された電池から確保できます。
これは、使用済み電池を鉱石のように扱う「都市鉱山」の考え方です。
リサイクルだけで日本に必要な金属をすべて確保できるわけではありません。しかし、新規鉱山からの調達とリサイクルを組み合わせることで、特定国や特定地域への依存を減らせる可能性があります。
オセアニアの廃電池を日本へ
年間1万トンの設備を安定して稼働させるには、処理する使用済み電池を継続的に確保する必要があります。
しかし、日本国内ではEVの普及から廃車までに時間がかかるため、当面は使用済みEV電池が十分に集まらない可能性があります。
そこで住友金属鉱山は2026年5月、住友商事とオセアニアにおける電池リサイクルの事業化調査を開始しました。
構想では、オーストラリアとニュージーランドで使用済み電池を回収し、現地で無害化、破砕、選別してブラックマスへ加工します。
そのブラックマスを日本へ運び、愛媛県の製錬設備でニッケル、コバルト、リチウムなどを回収します。
実現すれば、海外の使用済み電池を日本の電池材料へ変える国際的な循環網になります。
リサイクルすれば必ず安くなるわけではない
使用済み電池には価値のある金属が含まれていますが、回収すれば必ず利益が出るわけではありません。
電池の回収、保管、放電、無害化、破砕、選別、輸送、製錬、精製には費用が必要です。
電池は発火の危険があるため、一般的な金属スクラップよりも取り扱いが難しく、安全設備も必要です。
さらに、ニッケルやコバルトの価格が下落すると、回収した金属の販売価値が下がります。
天然資源から作られた材料が安ければ、再生材料を使用する経済的なメリットが小さくなる可能性もあります。
電池リサイクルの事業性は、回収率だけでなく、電池一トン当たりの処理費用と、回収金属の販売価値によって決まります。
LFP電池の普及も事業性を左右する
電池の種類によって、含まれる金属は異なります。
ニッケル、コバルト、マンガンを使用する電池は、回収できる金属の価値が比較的高くなります。
一方、リン酸鉄リチウムを使用するLFP電池には、基本的にニッケルとコバルトが含まれていません。
LFP電池が世界で普及すれば、回収対象となる使用済み電池一台当たりの金属価値が下がる可能性があります。
ただし、LFP電池からもリチウムや銅などを回収する必要があります。今後は、異なる電池材料へ柔軟に対応できる処理技術が求められます。
EU電池規則がリサイクル材料の需要を作る
欧州では、EV電池を含む一定の電池について、回収率や再生材料の使用割合に関する規則が整備されています。
2031年からは、対象となる電池の活物質に一定割合の再生コバルト、リチウム、ニッケルなどを使用することが求められます。
自動車メーカーや電池メーカーが欧州市場で製品を販売するには、再生材料の含有量を証明できる供給網が必要になります。
住友金属鉱山のリサイクル材料が品質、価格、トレーサビリティの条件を満たせば、日本国内だけでなく、海外市場へ供給できる可能性があります。
住友金属鉱山の業績を変える事業になるか
住友金属鉱山は、資源、製錬、材料の三つの事業を持っています。
電池リサイクルは、この三事業をつなぐ取り組みです。
使用済み電池を新しい資源として調達し、製錬技術で金属を回収し、材料事業で正極材へ加工できます。
この循環を一つの企業グループで構築できることは、同社の強みです。
一方、年間1万トンという設備能力だけで、企業全体の業績が大きく変わるとは判断できません。
投資判断では、計画処理能力ではなく、実処理量、設備稼働率、回収金属量、顧客への販売量、利益率を確認する必要があります。
また、住友金属鉱山の業績は、現在も銅、金、ニッケルなどの価格変動から大きな影響を受けます。
電池リサイクルが、金属価格に左右されやすい収益構造を安定させる新事業へ育つかが注目点です。
今後確認すべき点
次の変化が、商業化と業績貢献を判断する重要なシグナルです。
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プレ商業プラントの完成発表
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試運転の開始
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商業運転の開始
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年間の実処理量
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設備稼働率
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リチウム70%の回収目標達成
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ニッケル・コバルト95%の回収目標達成
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銅の回収量
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再生正極材の顧客認定
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自動車メーカー・電池メーカーとの供給契約
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使用済みEV電池の集荷量
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ブラックマスの調達量
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オセアニア事業化調査の結果
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国内外の回収拠点拡大
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電池一トン当たりの処理費用
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リサイクル事業の売上と利益
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LFP電池への対応
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EU電池規則に対応した認証
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設備能力の追加増強
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住友金属鉱山の業績への寄与
廃棄物から国産資源を作れるか
住友金属鉱山は、使用済み電池から銅とニッケルを回収する段階から、コバルトとリチウムを含む統合リサイクルへ進もうとしています。
年間1万トンの設備が安定稼働すれば、使用済みEV電池を国内で再利用可能な金属資源へ変える供給網が形成されます。
さらに、住友商事とのオセアニア構想が実現すれば、海外で発生する使用済み電池を、日本の製錬・材料技術によって再資源化する事業へ広がります。
ただし、設備能力と実際の処理量は同じではありません。
十分な電池を集め、目標回収率を達成し、天然資源由来の材料と競争できる価格で販売して初めて、継続的な事業になります。
未来産業地図では、プラントの完成、試運転、実処理量、金属回収率、顧客採用、オセアニアからの原料調達、収益への寄与まで継続して追跡します。
主な根拠資料
住友金属鉱山
「リチウムイオン二次電池リサイクル」
https://www.smm.co.jp/sustainability/activity_highlights/article_15/
住友金属鉱山
「リチウムイオン二次電池リサイクルプラントの建設を決定」
https://www.smm.co.jp/news/release/2024/03/001822.html
住友金属鉱山
「リサイクルリチウムを使用した電池正極材評価で性能確認」
https://www.smm.co.jp/news/release/uploaded_files/20241002.pdf
住友金属鉱山
「オセアニアにおける電池リサイクルの事業化調査を開始」
https://www.smm.co.jp/news/release/2026/05/002113.html
住友金属鉱山
「会社概要・組織図」
https://www.smm.co.jp/corp_info/about/outline/
住友金属鉱山
「株主・投資家情報」
https://www.smm.co.jp/ir/
関東電化工業
「資源の有効利用の取り組み」
https://www.kantodenka.co.jp/sustainability/environment/resources/
関東電化工業
「会社概要・事業所一覧」
https://www.kantodenka.co.jp/company/profile/
NEDO
「グリーンイノベーション基金事業、次世代蓄電池・次世代モーターの開発に着手」
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101535.html
NEDO
「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」
https://green-innovation.nedo.go.jp/project/next-generation-storage-batteries-motors/scheme/
経済産業省
「蓄電池産業戦略推進会議 参考資料」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/battery_strategy2/0008/shiryo04.pdf
欧州連合
「電池および廃電池に関する持続可能性規則」
https://eur-lex.europa.eu/EN/legal-content/summary/sustainability-rules-for-batteries-and-waste-batteries.html
注意事項
本記事は、企業、経済産業省、NEDO、欧州連合が公開した資料をもとに、技術およびプロジェクトの進展を整理したものです。
年間1万トンは計画上の設備能力であり、実際の処理量や利益を示すものではありません。金属回収率についても、実証事業で目標とされている数値であり、商業設備での達成を保証するものではありません。
本記事は特定企業の株式購入、売却その他の投資行動を推奨するものではありません。設備稼働、契約獲得、収益拡大または株価上昇を保証するものではなく、投資判断はご自身の責任で行ってください。

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