砂漠の砂が道路になる? Honda発のRising Sandがアフリカのインフラを変える可能性

Honda発のRising Sand

世界中の砂漠に大量に存在する砂を、道路の材料として使うことはできないのでしょうか。

一見すると、砂漠の砂は道路やコンクリートの材料に適しているように思えます。

しかし、砂漠の砂は風によって長い時間をかけて削られているため、粒が非常に細かく、表面が丸いという特徴があります。

粒同士がかみ合いにくく、セメントやアスファルトとの結合にも課題があるため、そのままでは建設用骨材として使いにくい材料です。

この未利用資源を、硬く均一な人工骨材へ変えようとしている日本企業がPathAhead株式会社です。

同社が開発した「Rising Sand」は、Hondaで培われた材料研究の知見から生まれました。

2027年からアフリカで道路舗装の実証を行い、2028年にはケニアの自社工場で量産を開始する計画です。

目次

■ 砂が足りないのに砂漠の砂は使えない

道路や建物を造るには、大量の砂、砂利、砕石が必要です。

これらは「骨材」と呼ばれ、コンクリートやアスファルトの体積の大部分を占めます。

骨材は単なる詰め物ではありません。道路や構造物の強度、耐久性、施工性、価格を左右する重要な材料です。

世界的にインフラ整備が進む一方、山や河川などから採取できる良質な天然骨材の不足が問題になっています。

ところが、砂漠に大量にある砂は、一般的な建設用砂の代わりとして簡単には使用できません。

砂漠砂の粒は約100マイクロメートル程度と細かく、丸みを帯びています。

粒が細かく丸いと、互いにしっかりかみ合わず、構造材料として必要な強度を得にくくなります。

PathAheadは、この使いにくい砂漠砂を加工することで、道路材料へ変えようとしています。

■ 砂漠砂を数十ミリの人工骨材へ

Rising Sandでは、細かな砂漠砂を独自の造粒技術によってまとめ、数十ミリメートル単位の大きな粒へ加工します。

造粒とは、細かい粉や粒を集め、一定の大きさと形を持つ粒状の材料にする技術です。

単に砂を固めるのではなく、骨材として必要な強度、粒度、形状を持たせます。

砂漠砂の粒の大きさや形状のばらつきを抑えることで、道路舗装に使いやすい高硬度の人工骨材を作る構想です。

PathAheadは、この技術について特許を出願しています。

想定用途はアスファルト道路だけではありません。

コンクリート用骨材、道路の路盤材、建築・土木分野の各種材料へ広がる可能性があります。

■ Hondaの材料研究から生まれた技術

PathAheadは、本田技研工業の新事業創出プログラム「IGNITION」から誕生したスタートアップです。

代表者はHondaの材料研究部門で、自動車用材料や鋼板などの研究に携わってきました。

自動車では、材料の強度、耐久性、重量、加工性、費用を同時に考える必要があります。

こうした材料研究の知見を、道路や建設資材の課題へ応用したものがRising Sandです。

これは、Hondaが道路材料事業へ直接参入したという意味ではありません。

PathAheadは独立性を持つスタートアップとして事業を進めています。

Hondaの公式制度から生まれた技術ですが、PathAheadの将来売上がHondaの業績へどの程度反映されるかは、現段階では公表されていません。

■ 道路寿命20年以上を目指す

HondaとPathAheadの公表資料では、一般的な天然骨材を使った道路の耐久年数を約10年とした場合、Rising Sandを使用した道路では20年以上の耐久年数を目指すとしています。

PathAheadの公式サイトでは、従来の天然骨材と比べて約2.5倍の耐久性を持つと説明しています。

道路の寿命が延びれば、補修工事の回数を減らせます。

その結果、道路のライフサイクルコストを従来の約60%に抑えられると試算しています。

ただし、この数値をそのまま確定した実績として受け取ることはできません。

耐久年数や費用削減効果はPathAheadの研究と試算に基づくものです。

実際の道路では、気温、雨量、地盤、施工方法、大型車の通行量、維持管理などによって劣化速度が変わります。

異なる国や地域で同じ耐久性を実現できるかは、今後の道路実証で確認する必要があります。

■ なぜ最初の市場がアフリカなのか

PathAheadが最初の市場として選んだのはアフリカです。

Hondaの公式発表では、アフリカ地域の道路舗装率は約20%と推定されています。

道路が整備されていない地域では、人や物の移動に時間がかかり、農産物や工業製品の輸送費も上昇します。

舗装済みの道路も、材料の品質や維持管理の問題によって早く劣化する場合があります。

一方、アフリカには原料となる砂漠砂が存在します。

現地の砂漠砂と薬剤を使い、消費地に近い場所で人工骨材を生産できれば、天然骨材を遠方から輸送する費用を抑えられる可能性があります。

PathAheadは、天然骨材と同等の価格でRising Sandを提供することを目指しています。

高耐久化だけでなく、現地調達、現地生産、輸送費の削減を組み合わせることが、事業成立の重要な条件になります。

■ 2027年から3カ国で道路実証

PathAheadは、2027年から約3年間にわたって道路舗装の実証を行う計画です。

最初にケニアで開始し、その後タンザニア、南アフリカへ展開します。

実証では、次の点を確認します。

・通常の舗装設備で施工できるか
・道路材料として必要な強度を持つか
・高温、雨、乾燥などの気候条件に耐えられるか
・大型車を含む交通荷重に耐えられるか
・生産するたびに同じ品質を再現できるか
・天然骨材と比べて費用競争力を持つか
・補修回数を本当に減らせるか

Hondaの紹介記事では、ケニア都市道路局から実証実験の申し出を受け、覚書の締結につながったと説明されています。

これは現地で実証する機会を得たことを示しますが、正式な大量購入や長期採用が決まったことを意味するものではありません。

■ 2028年にケニアで量産を計画

道路実証と並行し、PathAheadは2028年にケニアで自社工場を稼働させ、Rising Sandの量産を開始する計画です。

その後、タンザニアと南アフリカへ生産・供給体制を広げる構想です。

プロジェクトが大きく前進したと判断できるのは、工場建設予定地、設備投資額、年間生産能力、製造原価、販売先などが具体的に公表された時です。

2028年という量産目標は示されていますが、現時点では年間何トンを生産するか、どの建設会社が購入するか、販売価格はいくらかといった情報は確認できません。

量産計画が予定どおり進むかは、今後の資金調達と実証結果にも左右されます。

■ ホンダトレーディングと事業化を推進

2026年5月22日、PathAheadはホンダトレーディングとの業務提携を発表しました。

提携の対象は、Rising Sandを利用した道路舗装材と建設資材の事業化です。

新素材は、優れた性能を実証するだけでは事業になりません。

原料を安定して調達し、量産設備を設計し、製品を保管・輸送し、顧客へ販売する仕組みが必要です。

ホンダトレーディングは、世界各地で原材料、部品、設備、車両などの調達と供給を行っています。

PathAheadの材料開発力と、ホンダトレーディングの調達、物流、商流を組み合わせることで、研究素材から継続的に販売できる建設材料へ進める狙いがあります。

これは正式な量産開始ではありませんが、事業化に必要な供給・販売体制を整える動きとして注目できます。

■ 日本企業にどのような可能性があるのか

Rising Sandが事業化された場合、直接成長するのはPathAheadです。

同社は非上場企業であるため、一般の投資家が株式市場を通じて直接投資できる企業ではありません。

HondaはPathAheadを生み出した新事業創出制度を運営し、材料研究の基盤を提供しました。

ホンダトレーディングもHondaグループ企業ですが、PathAheadの事業規模がHonda全体の業績へ影響するには、相当な販売量が必要です。

現段階では、Rising Sandを理由にHondaの将来業績を予測できる情報は揃っていません。

一方、このプロジェクトには、完成車事業で蓄積された日本の材料技術が、道路インフラという異なる市場へ広がる可能性があります。

Rising Sandが実際に採用されれば、造粒設備、添加剤、品質検査、舗装技術、物流などで、ほかの日本企業が参加する余地も生まれます。

■ 世界市場へ広がるための条件

Rising Sandが世界的な建設材料へ成長するには、複数の条件を満たす必要があります。

第一に、ケニアなどの実道路で長期耐久性を証明することです。

第二に、天然骨材と同等、または補修費を含めて有利な価格を実現することです。

第三に、現地の砂漠砂が地域ごとに異なっても、安定した品質で生産できることです。

第四に、道路材料としての規格や認証を取得することです。

第五に、工場を建設し、大量の骨材を安定供給できることです。

第六に、道路管理機関や建設会社から継続受注を得ることです。

さらに、造粒に使用する薬剤や製造エネルギーを含めた環境負荷も確認しなければなりません。

天然資源の採取を減らしても、製造工程で大量のエネルギーや高価な材料を使用すれば、費用と環境面の利点が小さくなる可能性があります。

■ 砂漠の砂が世界の道路を支えるか

Rising Sandの魅力は、これまで使いにくかった砂漠砂を、現地の道路整備に利用しようとしている点です。

原料が存在する場所で生産し、その地域の道路へ使うことができれば、未利用資源、インフラ不足、天然骨材の不足という複数の課題を同時に解決できる可能性があります。

一方、現段階では道路実証の開始前です。

20年以上の耐久性、約60%というライフサイクルコスト、天然骨材と同等の提供価格は、今後の検証が必要な目標です。

このプロジェクトの本当の転換点は、2027年の実証開始、2028年のケニア工場建設、現地道路への正式採用です。

未来産業地図では、Rising Sandを完成済みの商品としてではなく、日本の材料技術がアフリカの道路インフラ事業へ成長できるかを確認するプロジェクトとして追跡します。

【参考資料】

本田技研工業株式会社
新事業創出プログラムIGNITION発のスタートアップ「PathAhead株式会社」設立
https://global.honda/jp/news/2026/c260331.html

PathAhead株式会社
PathAhead、ホンダトレーディングと次世代道路舗装材・建設資材の事業化に向けた業務提携を開始
https://pathahead.jp/news/20260522

PathAhead株式会社
公式サイト
https://pathahead.jp/

Honda Stories
砂漠の砂が、未来の道になる。Honda発スタートアップ「PathAhead」の挑戦
https://global.honda/jp/stories/194-2603-Ignition-startup-PathAhead.html

【記事末尾の注意書き】

本記事は、企業が公開した資料を基に、技術開発と事業化の進捗を整理したものです。耐久年数、費用削減効果、量産開始時期などには、企業側の研究結果、試算および将来計画が含まれます。特定企業の株式その他の金融商品の購入を推奨するものではなく、将来の業績、株価、量産、採用を保証するものでもありません。投資判断は、ご自身の責任で最新の開示資料などをご確認ください。

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この記事を書いた人

趣味を兼ねた骨董品の売買を経て、株式やFXなどの投資に関心を持つようになりました。

投資先を考える根拠として日本企業の技術を調べる中で、見つけた情報とその後の進展を記録する必要性を感じ、AIの力を借りて「未来産業地図」を制作。

技術・企業・プロジェクトを結び付け、研究、実証、量産、商用化までの動きを継続して追跡しています。

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