2026年、東京を走るはずだった無人タクシー
2023年10月、Honda、General Motors、Cruiseは、日本で無人タクシーサービスを開始する計画を発表しました。
開始予定は2026年初頭。対象地域は東京都心です。
最初は数十台でサービスを始め、その後500台規模まで拡大する構想でした。
使用予定だったCruise Originには、運転席、ハンドル、ペダルがありません。向かい合わせで6人が乗車し、配車から移動、決済までをスマートフォンで完結させる計画でした。
実現していれば、日本における大規模なレベル4無人配車サービスの先行事例になるはずでした。
しかし、この計画は当初の形では実現しませんでした。
GMがロボタクシーへの資金提供を終了
転換点は、2024年12月10日です。
GMは、自動運転戦略を見直し、Cruiseのロボタクシー開発への資金提供を終了すると発表しました。
理由として挙げられたのは、事業を大規模に展開するために必要な時間と資金、そして競争の激化です。
GMはCruiseの技術部門と自社の開発部門を統合し、無人配車サービスではなく、自家用車向けの先進運転支援・自動運転技術を優先する方針へ転換しました。
Honda、GM、Cruiseの三社でCruise Originを東京へ導入する計画は、Cruiseによるロボタクシー開発とGMの資金提供を前提としていました。
その前提が失われたため、2026年初頭の東京都心サービスと500台構想は、当初の枠組みでは実行不可能になりました。
なぜ走行技術があっても事業にならないのか
自動運転車が道路を走れることと、無人タクシー事業が利益を生み出すことは別の問題です。
無人タクシーでは、運転手の人件費を削減できる可能性があります。
一方で、次の費用が発生します。
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高価なセンサーと計算装置
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自動運転車両の購入・減価償却
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遠隔監視と遠隔支援
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車両の清掃と充電
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センサーを含む保守・整備
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高精度地図や通信環境の維持
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安全性検証
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事故や故障への対応
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運行区域拡大のための追加開発
運転手がいなくなっても、運行に必要な仕事がすべて消えるわけではありません。
遠隔支援者一人が担当できる車両が少なければ、人件費削減効果も限定されます。
台数を増やすほど難しくなる
数台の実証車両を限定区域で走らせることと、数百台の車両を毎日運行することにも大きな差があります。
台数を増やせば、事故、故障、通信障害、乗客トラブル、清掃、充電などの発生件数も増えます。
運行区域を広げれば、交差点、工事、緊急車両、路上駐車、歩行者、自転車など、検証しなければならない交通状況も増加します。
ロボタクシー事業の難しさは、走行技術の完成だけでなく、安全な運行体制を採算の合う価格で拡大できるかにあります。
GMが説明した「事業規模化に必要な時間と資金」は、この問題を示しています。
Hondaの投資は何を残したのか
Hondaは2018年、Cruiseとの協業に際し、7億5,000万ドルの出資と、今後12年間で約20億ドルの事業資金を支出する予定を発表していました。
合計の計画額は27億5,000万ドルです。ただし、これは発表時点の予定総額であり、その全額が実際に支出されたことを意味しません。
Cruise Originの日本導入計画は中止になりましたが、共同開発や国内実証で得た知識まで消えるわけではありません。
市街地における認識、走行判断、安全性検証、遠隔支援、配車サービス設計、関係機関との調整などは、Hondaの今後の自動運転・運転支援開発に利用できる可能性があります。
投資判断では、過去の投資額だけでなく、取得した技術や人材、データを別の製品へ転用できるかを確認する必要があります。
Hondaは自動運転から撤退したわけではない
今回中止されたのは、Cruise Originを使用した日本の無人タクシー事業です。
Hondaが自動運転技術全体の開発を中止したわけではありません。
Hondaは2021年、限定領域でシステムが運転を担うレベル3技術をHonda SENSING Eliteとして実用化しました。
Honda 0シリーズでは、まず高速道路の渋滞時に利用するアイズオフ技術を導入し、OTAによって対応範囲を拡大する構想です。
また、2027年頃に北米や日本で投入する主力車種へ、一般道を含む次世代ADASを展開する方針も示しています。
つまりHondaの自動運転戦略は、無人タクシー事業から、量産車へ搭載する運転支援・自動運転技術へ重点が移ったと見ることができます。
ロボタクシーと量産車では収益モデルが違う
ロボタクシーは、利用者が支払う運賃から、車両、遠隔監視、保守、充電などの費用を回収する事業です。
一方、量産車向けの運転支援技術では、車両価格への上乗せ、オプション料金、ソフトウェア更新、月額サービスなどから収益を得られます。
既存の車両販売網と顧客基盤を使えるため、Hondaにとっては量産車への展開の方が事業規模を拡大しやすい可能性があります。
ただし、レベル3や高度運転支援機能の価格を顧客が受け入れるか、ソフトウェア収益を継続的に得られるかは、今後の課題です。
計画中止も重要な投資シグナル
将来技術を評価する際、計画の発表だけを追うと、実際の事業性を見誤る可能性があります。
重要なのは、発表後に次の段階へ進んだかどうかです。
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合弁会社が予定どおり設立されたか
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試験車両が量産車両へ移行したか
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有償サービスを開始したか
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運行台数を拡大できたか
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売上と利益を計上できたか
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投資を回収できる見通しが立ったか
Hondaの東京500台構想は、技術発表から事業化へ進む途中で、資金提供者の戦略変更によって止まりました。
これは失敗を隠すべき事例ではなく、自動運転産業の採算性を理解するための重要な事例です。
次に追跡すべきもの
今後は、HondaがCruiseとの共同開発で得た技術をどこへ移すかが焦点になります。
特に注目すべきなのは、次の変化です。
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Honda 0シリーズへの自動運転技術搭載
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次世代ADASの対象車種
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レベル3機能の利用可能範囲
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自動運転機能の販売価格
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OTAによる機能追加
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ソフトウェア・サービス収益
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Helm.aiなど別の技術企業との協業
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無人配車サービスへの再参入の有無
Cruise Originによる東京の無人タクシー計画は中止されました。
しかし、Hondaが自動運転技術を量産車の付加価値と継続収益へ転換できるかという、次の競争は続いています。
未来産業地図では、Honda 0シリーズ、次世代ADAS、レベル3の適用拡大、ソフトウェア収益まで継続して追跡します。
※本記事は公開資料をもとに、技術とプロジェクトの進展を整理したものです。特定企業の株式購入や投資を推奨するものではありません。

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