日本のヨウ素埋蔵量は490万トン ペロブスカイト太陽電池の供給網を日本が握る可能性

日本のヨウ素埋蔵量490万トン

軽くて曲げられ、従来の太陽光パネルを設置しにくかった建物の壁面や耐荷重の小さい屋根にも導入できるペロブスカイト太陽電池。

この次世代太陽電池を日本の成長産業にできるかを考えるとき、製造技術と同じくらい重要になるのが原材料の供給です。

ペロブスカイト太陽電池の主要原料の一つであるヨウ素は、日本国内で生産できる数少ない地下資源です。

米国地質調査所(USGS)の2026年版資料によると、日本の2025年のヨウ素生産量は推定約9,000トン。チリの約2万3,000トンに次ぐ世界第2位です。

さらに、日本のヨウ素埋蔵量は約490万トンと推定されています。

日本は単にペロブスカイト太陽電池を開発する国ではなく、原料、材料、製造装置、太陽電池、施工までを国内で結ぶサプライチェーンを構築できる可能性があります。

目次

日本のヨウ素は「鉱山で掘る資源」ではない

一般に「ヨウ素の採掘」と表現されることがありますが、日本では岩石を掘り出してヨウ素を取り出しているわけではありません。

主に千葉県などの地下に存在する、水溶性天然ガスを含んだ「かん水」と呼ばれる地下水からヨウ素を回収しています。

この地下かん水には、海水よりも高い濃度でヨウ素が含まれています。天然ガスを生産する際にくみ上げたかん水からヨウ素を分離・精製し、製品化するのが日本の代表的な生産方法です。

つまり、日本には次の二つを同時に生産できる地域があります。

  • 国産エネルギー資源である水溶性天然ガス
  • 医薬品や電子材料などに使われるヨウ素

ヨウ素は消毒剤や医薬品だけでなく、液晶ディスプレー用偏光板、造影剤、飼料添加物、触媒など幅広い分野に使用されています。そこに新たな需要先として期待されているのが、ペロブスカイト太陽電池です。

日本の生産量は世界第2位

USGSが公表した2026年版「Mineral Commodity Summaries」によると、主要国の2025年推定生産量と埋蔵量は次のとおりです。

国 2025年推定生産量 推定埋蔵量
チリ 約23,000トン 約750,000トン
日本 約9,000トン 約4,900,000トン
トルクメニスタン 約800トン 約70,000トン
イラン 約700トン 約40,000トン
アゼルバイジャン 約210トン 約170,000トン
ロシア 約8トン 約120,000トン

出典:USGS「Mineral Commodity Summaries 2026」

現在の年間生産量ではチリが大きく先行し、日本は世界第2位です。資源エネルギー庁は、日本のヨウ素生産について世界シェア約30%と説明しています。

一方、USGSの埋蔵量推定では、日本の約490万トンはチリの約75万トンを大きく上回ります。

ただし、ここで注意しなければならないのが、「埋蔵量」と「すぐに供給できる量」は同じではないことです。

埋蔵量は、現在の技術や経済条件などを前提として回収可能と評価された資源量です。実際の供給量は、設備能力、生産コスト、環境条件、天然ガス生産との関係、需要、価格などに左右されます。

490万トンを年間9,000トンで単純に割ると約540年分になりますが、これはあくまで算術上の参考値です。実際の可採年数を示すものではありません。

それでも、国内に長期的な資源基盤があることは、サプライチェーンを考えるうえで大きな強みです。

なぜペロブスカイト太陽電池にヨウ素が必要なのか

ペロブスカイト太陽電池は、光を吸収して電気に変えるペロブスカイト結晶層を形成します。

その材料にはヨウ化物などのヨウ素化合物が使われます。ヨウ素は、光吸収層の結晶構造や発電性能を支える重要な構成元素の一つです。

ただし、すべてのペロブスカイト太陽電池が同一の材料配合で製造されるわけではありません。製品方式や研究開発の進展によって、ヨウ素の使用量や他の元素との組み合わせは変わります。

したがって、将来のペロブスカイト市場規模からヨウ素需要を単純に計算することはできません。

それでも、世界でペロブスカイト太陽電池の量産が進めば、高純度のヨウ素化合物を安定して供給できる企業の重要性が高まる可能性があります。

日本には原料から製品までをつなげる機会がある

日本が持つ強みは、ヨウ素の埋蔵量だけではありません。

国内には、次のような産業基盤があります。

  1. 地下かん水からヨウ素を回収する資源開発技術
  2. ヨウ素を精製し、各種ヨウ素化合物に加工する技術
  3. 電子材料や化学材料を高純度化する技術
  4. ペロブスカイト材料を塗布・封止する技術
  5. フィルムやバリア材などの機能性材料
  6. ロール・ツー・ロール方式による量産技術
  7. 建物や公共施設への施工・保守技術

この一連の工程が国内で結び付けば、日本は単なるヨウ素輸出国ではなく、より付加価値の高い材料や太陽電池製品を供給する国になれます。

特に重要なのは、ヨウ素をそのまま輸出するだけで終わらず、高純度ヨウ素化合物、ペロブスカイト前駆体、発電層材料、完成した太陽電池へと国内で付加価値を積み重ねることです。

量産体制の整備が始まっている

日本政府は、ペロブスカイト太陽電池について、2040年までに国内で累計約20GWを導入する目標を掲げています。

また、2030年までの早い段階でGW級の生産体制を構築し、国内外の市場獲得を目指す方針です。

量産技術の確立だけでなく、生産設備の整備と初期需要の創出を一体で進める計画になっています。

出典:資源エネルギー庁「エネルギー白書2025・次世代型太陽電池」

積水化学工業は、フィルム型ペロブスカイト太陽電池の量産化に向けた設備投資を進めています。こうした国内生産が拡大すれば、ヨウ素やヨウ素化合物を供給する企業にも新しい需要が生まれる可能性があります。

国内のヨウ素資源と、国内企業のペロブスカイト量産技術が同時に存在することは、日本にとって重要な競争条件です。

注目されるヨウ素生産企業

国内の代表的なヨウ素メーカーの一つが、伊勢化学工業です。

同社は公式サイトで、自社のヨウ素生産量について国内シェア30数%、世界シェア10%強と説明しています。日本だけでなく米国にも生産拠点を持ち、約20カ国へ供給しています。

出典:伊勢化学工業「グローバルネットワーク」

ヨウ素需要はペロブスカイト太陽電池だけで決まるものではなく、医療用造影剤など既存分野の需要にも左右されます。

そのため今後は、次の情報を追跡する必要があります。

  • ヨウ素の生産能力増強
  • 高純度ヨウ素化合物への設備投資
  • 太陽電池メーカーとの供給契約
  • ペロブスカイト向け材料の販売開始
  • ヨウ素価格と生産量の推移
  • 海外拠点を含めた供給能力
  • ペロブスカイト関連需要の業績への寄与

現時点では、ペロブスカイト太陽電池向けの需要がヨウ素各社の業績を大きく変えると断定できる段階ではありません。しかし量産規模が100MW、さらにGW級へ拡大すれば、原材料企業にも新しい市場が形成される可能性があります。

日本が必ず市場を握れるわけではない

日本はヨウ素資源で有利な立場にありますが、それだけでペロブスカイト太陽電池の世界市場をリードできるわけではありません。

USGSによると、最大生産国のチリでは年間4,000トン規模の生産能力増強が計画されています。海外でもペロブスカイト太陽電池の開発競争が進んでいます。

日本が市場をリードするには、次の課題を乗り越える必要があります。

  • 太陽電池の耐久性と変換効率
  • 大面積製造時の品質安定
  • シリコン太陽電池と競争できる価格
  • 原材料の長期安定供給
  • 鉛などを含む製品の回収・再資源化
  • 製品規格と安全基準の整備
  • 国内生産設備への継続的な投資
  • 海外市場での販売・施工網の構築

また、ヨウ素は医療や電子材料にも欠かせない資源です。太陽電池向けの需要が増加した場合には、既存用途と競合せずに供給量を増やせるかも重要になります。

原料国から「産業を輸出する国」になれるか

日本の可能性は、ヨウ素を保有していることだけにあるのではありません。

ヨウ素の回収、精製、化合物への加工、太陽電池材料、フィルム製造、量産装置、施工、保守、回収までを一つの産業として構築できる点にあります。

原料だけを海外へ供給するのではなく、日本国内で高付加価値の材料や製品へ変えられれば、ペロブスカイト太陽電池が日本の新しい輸出産業になる可能性があります。

日本発の太陽電池技術と、日本国内に存在するヨウ素資源。

この二つを結び付けられることは、日本の大きな優位性です。

ただし、期待を現実の産業に変えるには、量産能力、価格、供給契約、海外採用、企業業績への寄与を継続して確認する必要があります。

未来産業地図では、ペロブスカイト太陽電池の生産能力だけでなく、その上流にあるヨウ素資源と材料企業の動きも追跡していきます。

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この記事を書いた人

趣味を兼ねた骨董品の売買を経て、株式やFXなどの投資に関心を持つようになりました。

投資先を考える根拠として日本企業の技術を調べる中で、見つけた情報とその後の進展を記録する必要性を感じ、AIの力を借りて「未来産業地図」を制作。

技術・企業・プロジェクトを結び付け、研究、実証、量産、商用化までの動きを継続して追跡しています。

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