44社・団体が支える国産AI開発
日本国内の企業や研究機関が連携し、AIエージェントやロボットの基盤となる国産AIモデルを開発する大規模プロジェクトが動き始めました。
開発を担うのは、Noetra株式会社です。
ソニーグループ株式会社、ソフトバンク株式会社、日本電気株式会社、本田技研工業株式会社を中核企業とし、製造業を中心とする合計44社・団体から出資を受けています。
今回開発するのは、単に日本語で会話する生成AIではありません。
文章、画像、動画、音声、センサー情報などを一体的に理解し、将来的にはロボットや機械を通じて現実世界で行動する「フィジカルAI」の基盤を国内に構築しようとしています。
Noetraが開発する国産AIとは
Noetraが開発するのは、国産マルチモーダル基盤モデルです。
マルチモーダルとは、文章だけでなく、画像、動画、音声など複数種類の情報を一体的に処理する仕組みです。
開発は段階的に進められます。
まず、高度な日本語理解、論理推論、指示遂行能力を備えた推論基盤モデルを構築します。
その後、画像、動画、音声を理解するマルチモーダル基盤モデル、さらに物理空間を認識する世界基盤モデルへ発展させる計画です。
その先にあるのが、工場のカメラやセンサーから周囲の状況を判断し、産業用ロボットや機械を適切に動かすフィジカルAIです。
日本企業が蓄積してきた製造技術や現場データを国内で安全に利用し、人手不足や生産性向上といった課題の解決につなげる構想です。
44社すべてが開発を担当するわけではない
今回の「44社・団体」という数字は、Noetraに出資した主体の合計です。
44社が同じ役割で一つのAIを共同開発するという意味ではありません。
研究開発体制は、中核企業、国立研究開発法人産業技術総合研究所、株式会社Preferred Networksなどから参加する技術者を中心に構成されます。
ソフトバンクは、国産生成AIの開発経験、計算基盤、データセンターの知見を持っています。
NECは、AI、通信、社会インフラ、企業向けシステムに強みがあります。
ソニーグループは、画像、映像、音声、イメージセンサーなど、マルチモーダルAIと関係の深い技術を保有しています。
ホンダは、自動車、移動技術、ロボティクスなど、AIを現実世界で動かす分野に関係します。
ただし、各社の具体的な開発分担は、今後の公式発表を確認する必要があります。
NEDOの国家プロジェクトとして採択
Noetraと産業技術総合研究所は、NEDOの「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」の実施予定先に選ばれました。
事業期間は2026年度から2030年度です。
ただし、2027年度以降の継続は、毎年度のステージゲート審査によって判断されます。
国の支援があることは開発を進める大きな力になりますが、開発成功や事業化が保証されたわけではありません。
性能、開発費、利用企業、収益モデルなどを継続的に確認する必要があります。
約2万7,500基のNVIDIA Rubin GPUを計画
Noetraは、当初は国内事業者が運用するAI計算基盤を利用してモデル開発を始めます。
さらにNVIDIAと連携し、約2万7,500基のRubin GPUを搭載するAI計算基盤を整備する計画です。
建設開始は2027年4月、稼働開始は2028年6月の予定と発表されています。
ソフトバンクの説明によると、この計算基盤は国が所有する形で整備される計画です。
大規模AIの開発には、高性能半導体だけでなく、それを収容するデータセンター、大量の電力、冷却設備、高速通信網が必要です。
Noetraの進展は、周辺産業への設備投資にもつながる可能性があります。
Rapidusの2ナノ半導体とつながるのか
北海道千歳市では、Rapidus株式会社が最先端2ナノメートル半導体の2027年量産開始を目指しています。
2025年4月にパイロットラインが稼働し、同年7月には2ナノ世代GAAトランジスタの動作が確認されました。
AIの高度化は、高性能で消費電力の少ない半導体への需要を拡大させます。
そのため、国産AIと国産先端半導体が将来的に結び付く構図には期待できます。
ただし、現時点でNoetraがRapidus製半導体を採用すると決まった事実はありません。
発表済みのNoetra向け計算基盤では、NVIDIAのRubin GPUを使用する計画です。
Rapidusとの接点が生まれるとすれば、将来のAIアクセラレーター、エッジAI用半導体、ロボット向け制御半導体、先端パッケージなどが候補になります。
この点は将来の可能性として扱い、正式な提携や採用が発表されるまで、Rapidusをこの記事の関連企業には設定しません。
データセンターと電力も重要になる
高性能なAIモデルが完成しても、国内で安定して動かせる計算基盤がなければ、企業や自治体は利用できません。
ソフトバンクは、国内データセンターに構築したGPU計算基盤を利用する「AIデータセンター GPUクラウド」を2026年10月から提供する計画です。
今後はデータセンターの建設だけでなく、電力供給、再生可能エネルギー、蓄電設備、冷却装置、光通信、半導体製造装置などにも需要が広がる可能性があります。
AI向けデータセンターは大量の電力を消費するため、電力の確保と冷却効率が事業拡大の制約になる可能性もあります。
量子コンピュータとの関係
量子コンピュータが、すぐにGPUや通常のコンピュータを置き換えるわけではありません。
当面は、AIやスーパーコンピュータが大部分の処理を担当し、量子コンピュータが特定の計算を補助する「量子・古典ハイブリッド」が現実的な方向です。
材料開発、物流最適化、創薬、製造工程の組み合わせ問題などで実用化が進めば、国産AI基盤と量子計算基盤が連携する可能性もあります。
ただし、現時点でNoetraと特定の量子コンピュータとの連携は発表されていません。
日本独自のAI産業圏を作れるか
Noetraの価値は、国産AIモデルを一つ完成させることだけではありません。
AIモデル、半導体、データセンター、通信、ロボット、自動車、製造業のデータを国内でつなぎ、一つの産業基盤として成立させられるかが重要です。
日本は、製造業、産業用ロボット、センサー、素材、半導体製造装置などに強みを持っています。
これらをフィジカルAIと結び付けられれば、海外の会話型AIを追いかけるだけではない、日本独自の競争領域を作れる可能性があります。
今後確認すべき進捗
今後は、次の情報を追跡します。
国産推論基盤モデルの公開時期。
海外AIと比較した性能評価。
画像、動画、音声を扱うモデルの公開。
工場、自動車、ロボットへの採用。
約2万7,500基のGPU計算基盤の着工と稼働。
毎年度のNEDOステージゲート審査。
参加企業の追加、撤退、役割変更。
有料APIや企業向けサービスの開始。
Rapidusや国産AI半導体との具体的な連携。
出資企業の受注、売上、業績への寄与。
まとめ
Noetraの国産AI開発は、まだAIモデルの完成や商用化を発表した段階ではありません。
しかし、44社・団体による出資、NEDO事業への採択、大規模AI計算基盤の整備計画まで、研究開発を進める体制は具体化しています。
この取り組みがAIモデルだけで終わらず、Rapidusの先端半導体、国内データセンター、光通信、量子計算、産業用ロボットへ広がれば、日本に新しいAI産業圏が形成される可能性があります。
未来産業地図では、モデルの公開、性能、採用企業、計算基盤の建設、国産半導体との連携、参加企業の業績への影響まで継続して追跡します。
根拠資料
Noetra国産マルチモーダル基盤モデル開発発表
https://www.softbank.jp/en/corp/news/press/sbkk/2026/20260716_01/
NEDO「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」
https://www.nedo.go.jp/koubo/CD3_100431.html
ソフトバンク2027年3月期第1四半期決算説明会・質疑応答
https://www.softbank.jp/corp/ir/documents/presentations/fy2026/q1_earnings_qa/
Rapidus半導体開発製造拠点IIM
https://www.rapidus.inc/iim/
ソフトバンク「AIデータセンター GPUクラウド」
https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2026/20260525_01/

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