TECHNOLOGY PROFILE
衛星量子暗号通信技術
Satellite Quantum Cryptography Communication Technology
技術概要
低軌道衛星と地上の光通信局をレーザー光で結び、量子鍵配送や物理レイヤ暗号を利用して、安全な暗号鍵を長距離で共有する技術です。光ファイバーだけでは難しい大陸間規模の量子暗号ネットワークの実現を目指します。
技術詳細
衛星量子暗号通信は、人工衛星と地上局の間で光を送受信し、暗号通信に使用する秘密鍵を安全に共有する技術です。
通常の暗号通信では、送信する情報を暗号鍵で変換し、第三者が内容を読めない状態にします。
暗号通信の安全性を維持するには、通信する双方が暗号鍵を安全に共有する必要があります。
量子鍵配送、QKDは、光子の量子的な性質を利用して暗号鍵を共有する技術です。
第三者が通信途中の光子を観測すると量子状態に変化が生じるため、盗聴の有無を確認できます。
ただし、量子鍵配送だけで一般的な文章や画像を直接送るわけではありません。量子鍵配送で共有した秘密鍵を使い、別の通信回線で送るデータを暗号化します。
NICTは、量子鍵配送とは別に、衛星と地上局の間を結ぶ狭いレーザー光の経路を利用する物理レイヤ暗号も開発しています。
物理レイヤ暗号では、光が届く範囲を管理された地上局周辺へ限定し、盗聴者が受信できる情報量を推定して、安全な秘密鍵を生成します。
QKDと物理レイヤ暗号は同じ技術ではありません。通信環境、必要な鍵生成速度、安全性、運用費用などに応じて使い分けることが想定されています。
地上の光ファイバーによる量子鍵配送は、距離が長くなるほど光信号が弱くなる問題があります。
人工衛星を利用すれば、大気の影響を受ける区間を衛星と地上局の間に限定し、それ以外の大部分を光が減衰しにくい宇宙空間で伝送できます。
一方、低軌道衛星は地上から見ると高速で移動します。
地上局は、衛星から届く非常に細い光を高精度で捕捉し、追尾し続けなければなりません。
また、雲や強い雨があると光通信が難しくなるため、複数の地上局を配置して天候に応じて受信地点を切り替える運用も必要になります。
衛星量子暗号通信の実用化には、衛星搭載装置の小型化、耐放射線性能、精密追尾、鍵生成速度、地上局の低コスト化、地上量子暗号網との統合が必要です。
日本では2017年、NICTが50kg級の超小型衛星を利用した量子通信を実証しました。
2024年には、国際宇宙ステーションと可搬型光地上局の間で、1回の上空通過当たり100万ビット以上の秘密鍵を共有する物理レイヤ暗号通信に成功しました。
次の段階として、300kg級の専用低軌道衛星と可搬型光地上局を開発し、量子鍵配送、物理レイヤ暗号、光通信、地上ネットワークとの統合運用を実証する国家プロジェクトが進められています。
