全固体電池は「発表」から「設備投資」へ進んだ
全固体電池は、EVの航続距離、充電時間、出力性能を変える次世代技術として長く注目されてきました。一方で、性能の高い試作品を作ることと、数万台、数十万台の自動車へ安定供給することの間には大きな壁があります。
出光興産とトヨタ自動車は、2023年からBEV用全固体電池の量産化に向けて協業しています。そして2026年1月、出光興産は全固体電池材料である固体電解質の大型パイロット装置について、最終投資決定を行い、建設を開始しました。
全固体電池は、いよいよ量産準備を具体的な設備へ移す段階に入っています。
出光興産が担うのは「電池の中をつなぐ材料」
全固体電池では、リチウムイオンが正極と負極の間を移動するための電解質を、液体ではなく固体に置き換えます。
今回の協業で出光興産が担当するのは、硫化物系固体電解質です。この材料は、電極との密着性を持たせやすく、イオンが移動しやすいことが特徴とされています。
全固体電池では、充放電を繰り返すうちに電極と電解質の界面に亀裂が生じ、性能や耐久性が低下することが課題です。トヨタと出光興産は、材料技術と電池加工技術を組み合わせ、性能と耐久性を両立させることを目指しています。
年間数百トンの大型パイロット装置を建設
出光興産は、千葉県市原市の千葉事業所で大型パイロット装置を建設しています。年間生産能力は数百トンを見込み、2027年中の完成を目指す計画です。
重要なのは、この設備が量産工場そのものではなく、本格量産の前に品質、歩留まり、コスト、納期を検証するための設備である点です。
小型実証設備から大型パイロット装置へ移行することで、研究室レベルでは見えにくい製造上の問題が明らかになります。材料を均一に作れるのか。水分管理を徹底できるのか。自動車用として求められる品質を安定供給できるのか。ここが量産化の分岐点です。
トヨタの2027〜2028年目標を支える供給網
トヨタは、全固体電池を搭載したBEVを2027〜2028年に実用化する目標を掲げています。出光興産の大型パイロット装置で製造される固体電解質は、トヨタが開発するBEV向け全固体電池に使用される予定です。
出光興産はさらに、固体電解質の中間原料である硫化リチウムについても大型製造装置を建設し、2027年6月の完成を目指しています。
つまり、全固体電池の競争はセルの性能だけではありません。原料、材料、加工、組立、車両搭載までの供給網を、目標時期までに実際に稼働させられるかが問われています。
石油会社の副産物が、次世代BEVの材料になる
出光興産の特徴は、石油精製で得られる硫黄成分を、固体電解質の材料へつなげている点です。
ここには、石油会社が燃料供給だけでなく、素材供給企業へと役割を広げようとする姿が見えます。化石燃料から得られる副産物を、次世代BEVの中核材料へ転換できれば、エネルギー転換の中で新しい収益源を持つ可能性があります。
ただし、これは将来の可能性であり、現時点で全固体電池材料事業の売上規模や利益寄与額は公表されていません。
日本の電池産業をつなぐ構図
ここからは考察です。
全固体電池では、トヨタが電池設計・加工・BEV搭載を担い、出光興産が固体電解質の量産技術を担います。さらにトヨタは正極材で住友金属鉱山とも協業を進めています。
これは、完成車メーカーだけで全固体電池を完成させる構図ではありません。石油化学、素材、電池加工、車両製造をつなぎ、日本国内に次世代電池の供給網を築こうとする動きと見ることができます。
海外勢との競争で重要なのは、試作電池の性能ではなく、必要な材料を必要な品質とコストで供給し続けられるかです。出光興産の設備建設は、その供給網を実際に作れるかを検証する工程になります。
まだ決まっていないこと
現時点で、全固体電池を搭載するトヨタ車の車種、搭載量、販売価格、電池容量、航続距離、充電時間、量産台数、本格量産工場の規模は公表されていません。
大型パイロット装置の完成は重要な進展ですが、量産車への搭載と商用化を保証するものではありません。2027年以降に、設備の稼働、材料供給、電池性能、搭載車、実際の量産計画が具体化するかを確認する必要があります。
今後の追跡点
- 2027年6月予定の硫化リチウム大型製造装置の完成
- 2027年中を目指す固体電解質大型パイロット装置の完成
- パイロット装置での品質・歩留まり・コストに関する発表
- トヨタの全固体電池搭載車種と発売時期
- 2027〜2028年の実用化目標の達成可否
- 本格量産工場への投資判断
- 出光興産の材料事業における売上・利益への寄与
全固体電池は、まだ本格量産前です。しかし出光興産とトヨタの協業は、材料開発の段階から、大型設備を使った量産準備へ進みました。
未来産業地図では、設備完成、材料供給、トヨタ車への搭載、本格量産投資、そして出光興産・トヨタの事業への寄与を継続して追跡します。

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