AI半導体の重要材料「ハフニウム」を国内製造へ――第一稀元素、2028年量産化で供給網を変えられるか

AI半導体の重要材料「ハフニウム」を国内製造へ

AI半導体の性能競争を支えているのは、GPUや製造装置だけではありません。

半導体を構成する一つひとつの材料にも、高性能化と省電力化を左右する重要な役割があります。

第一稀元素化学工業は2026年8月25日、重要レアメタルの一種である「ハフニウム」の国内製造技術とサンプル試作技術を確立したと発表しました。

2026年内に半導体用途などへサンプルの提供を開始し、生産規模を拡大するための技術開発を経て、2028年の国内量産化を目指します。

目次

ハフニウムはAI半導体の何に使われるのか

ハフニウムは、元素記号をHf、原子番号を72とするレアメタルです。

高い耐熱性と耐食性に加え、優れた電気的・光学的特性を持ち、半導体、航空宇宙、光学材料、原子力などに利用されています。

現在、特に重要性が高まっているのが、先端半導体に使われるHigh-k材料です。

半導体の回路を細かくすると、絶縁膜も薄くする必要があります。しかし、従来材料のまま薄くし続けると電流が漏れやすくなり、消費電力や発熱の増加につながります。

ハフニウム系のHigh-k材料は、高い絶縁性能を保ちながら半導体素子の微細化を進めるために使われます。

AIやデータセンターの拡大によって、半導体には演算性能だけでなく、消費電力を抑える能力も強く求められています。ハフニウムは目立たない材料ですが、AI半導体の性能と電力効率を支える重要な存在です。

ジルコニウムの中に含まれる微量成分を取り出す

ハフニウムは、自然界ではジルコニウム鉱石と一緒に存在しています。

しかし、含有量が少ないうえ、ジルコニウムと化学的性質がよく似ているため、両者を高い精度で分離するには高度な技術が必要です。

第一稀元素化学工業は、ベトナムの生産拠点でジルコニウム鉱石を精製し、中間原料となるジルコニウム中間体を製造しています。

この中間体を日本へ運び、国内の生産拠点でジルコニウム化合物へ加工するのが現在の供給体制です。

今回確立した技術では、その中間体に含まれる微量のハフニウムを、溶媒抽出によって日本国内で分離・精製します。

原子力研究から生まれた分離技術が協力

研究開発には、株式会社エマルションフローテクノロジーズが技術協力しています。

同社は、日本原子力研究開発機構で生まれた溶媒抽出技術「エマルションフロー」の社会実装を進めるスタートアップです。

一般的な溶媒抽出では、水相と油相を混ぜ、静置し、二つの液体へ分離する工程が必要です。

エマルションフローは、主に送液によって混合と分離を連続的に行える点を特徴とし、設備の小型化、処理速度の向上、コストやエネルギー使用量の削減が期待されています。

第一稀元素化学工業の発表は、実際の製造工程へエマルションフロー装置をそのまま採用するとまでは説明していません。そのため、現段階ではEFTが持つ溶媒抽出技術の知見を活用した共同研究・技術協力として捉える必要があります。

「完全な国産原料」ではなく重要工程の国内化

今回の計画を「日本産ハフニウムの生産」と表現するのは正確ではありません。

原料となる鉱石は海外から調達され、ベトナムの生産拠点でジルコニウム中間体へ加工されます。

国内化されるのは、その中間体からハフニウムを分離・精製する工程です。

それでも、重要鉱物を分離・精製する能力を国内に持つ意味は小さくありません。

ハフニウムは、経済安全保障推進法に基づく特定重要物資「重要鉱物」の対象鉱種に含まれています。鉱石を確保するだけでなく、必要な純度の材料へ加工できなければ、国内産業へ供給することはできません。

今回の技術は、海外依存を完全になくすものではありませんが、日本国内に重要な精製工程を確保する動きと評価できます。

主力のジルコニウム事業にも効果

今回の技術には、ハフニウムを新たな製品として販売する以外の効果もあります。

ジルコニウム中間体からハフニウムを取り除けば、残されたジルコニウム側の純度をさらに高めることができます。

第一稀元素化学工業の主力製品は、さまざまな産業で使用されるジルコニウム化合物です。

ハフニウムの分離がジルコニウム製品の高純度化や高機能化につながれば、新規事業と既存事業の両方に効果が及ぶ可能性があります。

単に新しいレアメタルを販売するだけではなく、同社が保有するジルコニウムの一貫生産体制から、これまで十分に利用されていなかった成分を新しい製品として取り出す計画だと考えられます。

技術確立と量産化には距離がある

一方で、今回発表されたのは製造技術とサンプル試作技術の確立です。

商業規模での量産開始が決定したわけではありません。

2026年内に予定されているサンプル提供後には、半導体材料メーカーなどによる純度、品質、安定性、価格の評価が必要になります。

現在、次の事項は公表されていません。

  • 量産設備を設置する工場

  • 設備投資額

  • 年間生産能力

  • 製品の純度と仕様

  • サンプル提供先

  • 量産品の販売価格

  • 長期供給契約

  • 売上高と利益への寄与額

2028年の量産化目標までに、顧客評価、製品仕様の決定、設備投資、量産設備の整備を進められるかが焦点になります。

投資判断では何を確認すべきか

第一稀元素化学工業は、東京証券取引所プライム市場に上場する企業で、証券コードは4082です。

ハフニウムがAI半導体、データセンター、航空宇宙、経済安全保障という複数の成長テーマに関係していることは、同社への関心を高める材料になります。

しかし、魅力的な用途があることと、企業の利益へ大きく貢献することは同じではありません。

投資判断で重要になるのは、サンプル提供先から採用評価を得られるか、どの程度の生産能力を整備するのか、設備投資に対して十分な販売量と利益率を確保できるかです。

量産能力や供給契約が公表されるまでは、業績への影響を具体的に計算することはできません。

2026年のサンプル提供が最初の確認点

最初の確認点は、2026年内に予定されるサンプル提供です。

その後、顧客評価の開始、製品仕様の決定、量産設備への投資、供給契約の締結などが発表されれば、2028年の量産化に向けた確度は高まります。

国内で商用生産の事例が乏しかった重要レアメタルを、上場する日本企業が量産できるようになるのか。

未来産業地図では、サンプル提供、顧客評価、設備投資、生産能力、供給契約、2028年の量産開始まで継続して追跡します。

参考資料

第一稀元素化学工業「重要レアメタル『ハフニウム』の国内製造技術確立のお知らせ」
https://www2.jpx.co.jp/disc/40820/140120260825525456.pdf

第一稀元素化学工業「重要レアメタル『ハフニウム』の国内製造技術を確立、2026年内にサンプル提供開始、2028年に量産化へ」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000171462.html

第一稀元素化学工業「すぐわかる第一稀元素」
https://www.dkkk.co.jp/summary/

第一稀元素化学工業「会社概要」
https://www.dkkk.co.jp/company/profile.html

株式会社エマルションフローテクノロジーズ「会社情報」
https://emulsion-flow.tech/about/

日本原子力研究開発機構「限りあるレアメタル資源を、未来につなぐ」
https://www.jaea.go.jp/02/press2021/p21060301/

経済産業省「重要鉱物」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic_security/metal/index.html

※本記事は公開資料をもとに、企業、技術、プロジェクトの進展を整理したものです。特定企業の株式購入や投資を推奨するものではありません。

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この記事を書いた人

趣味を兼ねた骨董品の売買を経て、株式やFXなどの投資に関心を持つようになりました。

投資先を考える根拠として日本企業の技術を調べる中で、見つけた情報とその後の進展を記録する必要性を感じ、AIの力を借りて「未来産業地図」を制作。

技術・企業・プロジェクトを結び付け、研究、実証、量産、商用化までの動きを継続して追跡しています。

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