LNGを運ぶ船を海外任せにしない 日本が国産LNG運搬船の建造再開へ

日本が国産LNG運搬船

日本が、液化天然ガスを運ぶLNG運搬船の国内建造再開へ動き始めました。

国土交通省は2026年8月21日、造船業界、海運業界、荷主、関係省庁による「LNG運搬船の安定的な供給体制の構築に向けた懇談会」を開催しました。

今回確認されたのは、完成した船の発表でも、特定の造船所による受注でもありません。日本国内でLNG運搬船を再び継続的に建造できる体制を整えるための、官民協議の開始です。

目次

日本のLNG輸入を支える特殊な船

LNGは、天然ガスを約マイナス162℃まで冷却して液体にしたものです。日本は輸入するLNGのすべてを海上輸送に依存しており、その輸送を担うのがLNG運搬船です。

LNG運搬船には、極低温に耐える貨物タンク、防熱構造、蒸発ガスの処理設備、安全制御などが必要です。一般的な貨物船よりも設計・建造の難度が高く、造船会社と多数の舶用機器企業による技術の集積が求められます。

エネルギー資源を確保できても、それを日本まで運ぶ船が不足すれば、安定供給は成り立ちません。政府が国内建造体制を経済安全保障上の課題として扱う理由はここにあります。

造船・海運・荷主・政府が協議

懇談会には、造船業界から日本造船工業会と今治造船、川崎重工業、名村造船所が参加しました。

海運業界・荷主側からは日本船主協会とJERA、政府側からは国土交通省、内閣官房、内閣府、経済産業省、資源エネルギー庁が参加しています。

造船業界は、最終的に国内で自立したLNG運搬船建造体制を確立する意向を表明しました。

荷主・海運側も、国際競争力を持つLNG運搬船であることを前提として、一定規模の計画的な発注や国内への優先発注を視野に入れ、造船業界と連携する方針を示しました。

日本に技術がなくなったわけではない

日本の造船会社には、LNG運搬船の建造実績があります。

川崎重工業は1981年、欧米以外で初となるLNG運搬船を建造しました。その後も、貨物タンク容量18万2,000立方メートル級の大型船から、内航向けの小型船まで手掛けています。

今治造船も、西条工場で17万8,000立方メートル級、広島工場で15万4,980立方メートル級のLNG運搬船を建造した実績があります。

問題は、過去の実績があるかどうかではありません。現在の国際市場で競争できる価格、納期、生産能力を備え、継続的に受注・建造できる体制を再構築できるかどうかです。

海外建造に依存している現状

日本企業が利用するLNG運搬船でも、海外の造船所で建造される例があります。

INPEXが2026年4月に発表した新造LNG船「HARMONIC BREEZE」は、韓国のハンファオーシャン巨済造船所で建造されました。

海外建造そのものが問題というわけではありません。しかし、エネルギー輸送に不可欠な特殊船を国内で供給できる能力を維持することは、調達先の分散や緊急時の対応力という面で重要です。

今後決めなければならないこと

官民協議では、今後、発注隻数、発注時期、建造スケジュール、必要な設備投資、建造コストを具体化します。

さらに、造船所同士がどのように連携するのか、共通設計を採用するのか、どの工場やドックを使用するのか、政府が予算措置を含めてどの程度支援するのかも焦点になります。

国土交通省の造船業再生ロードマップでは、国内の船舶建造能力を2024年時点の907万総トンから、2035年に1,800万総トン規模へ拡大する目標が示されています。

LNG運搬船の国内建造再開は、この造船業再生策を象徴する取り組みの一つになる可能性があります。

まだ「建造決定」ではない

現時点では、発注される船の数、建造を担当する造船所、投資額、初号船の起工・完成時期は公表されていません。

今回の発表を「国産LNG運搬船の量産開始」や「受注決定」と表現するのは正確ではありません。現在地は、国内建造再開に向けた官民協議と事業化準備の段階です。

また、協議に参加した今治造船、川崎重工業、名村造船所が、それぞれ個別船を受注したことを意味するものでもありません。

日本の造船業再生につながるか

計画が具体化すれば、造船所の大型設備だけでなく、極低温タンク、防熱材、ポンプ、バルブ、配管、推進機関、制御装置など、国内の広い舶用工業へ需要が波及する可能性があります。

LNGを購入する企業が計画的に発注し、造船各社が連携して建造し、政府が初期投資を支える仕組みを構築できるかが重要です。

日本がLNG運搬船を再び国内で安定建造できるようになれば、エネルギー安全保障と造船産業の再生を同時に進められる可能性があります。

未来産業地図では、発注隻数、設備投資、建造担当企業、初号船の受注、起工、竣工まで、このプロジェクトの進展を継続して確認します。

根拠資料

国土交通省「LNG運搬船の安定的な供給体制の構築に向けた懇談会を開催しました」(2026年8月21日)
https://www.mlit.go.jp/report/press/kaiji05_hh_000344.html

国土交通省「造船ワーキンググループ」
https://www.mlit.go.jp/maritime/maritime_tk5_000090.html

川崎重工業「LNG(液化天然ガス)運搬船」
https://www.khi.co.jp/mobility/marine/ships/lng.html

今治造船「会社概要・建造実績」
https://www.imazo.co.jp/company/profile/

INPEX「新造LNG船の長期定期傭船契約の締結と命名式の実施について」(2026年4月17日)
https://www.inpex.com/news/2026/20260417.html

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この記事を書いた人

趣味を兼ねた骨董品の売買を経て、株式やFXなどの投資に関心を持つようになりました。

投資先を考える根拠として日本企業の技術を調べる中で、見つけた情報とその後の進展を記録する必要性を感じ、AIの力を借りて「未来産業地図」を制作。

技術・企業・プロジェクトを結び付け、研究、実証、量産、商用化までの動きを継続して追跡しています。

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