スーパーコンピューター「富岳」の後継となる、次世代フラッグシップシステム「富岳NEXT」の開発が進んでいます。
富岳NEXTは、富岳の計算速度を単純に高めるだけの計画ではありません。従来の科学技術シミュレーションを担うHPCと、生成AIを含む大規模なAI処理を一つのシステム上で連携させ、科学研究や産業開発の方法そのものを変える計算基盤として計画されています。
開発主体は理化学研究所です。全体システムとCPUの基本設計を富士通が担当し、演算処理加速部についてはNVIDIAとの国際連携を進めています。
富岳NEXTが目指すもの
現在の富岳は、気象・防災、創薬、材料開発、航空機設計、宇宙、エネルギーなど、幅広い分野で利用されています。
今後の科学研究では、物理法則に基づくシミュレーションだけでなく、AIによる予測、実験データの解析、研究仮説の生成などを連続して処理する必要があります。
富岳NEXTが目指すのは、シミュレーションとAIを融合する「AI for Science」のための計算基盤です。
例えば、膨大な計算時間を必要とする気象、創薬、核融合、半導体、航空機などのシミュレーション結果をAIに学習させます。AIによって有望な条件を絞り込み、再び高精度シミュレーションや実験で検証することで、研究開発に必要な時間と試行回数を削減できる可能性があります。
富岳の何倍になるのか
富岳NEXTについては、「富岳の5~10倍」と「最大100倍」という異なる数字が示されています。
この二つは同じ性能を表す数字ではありません。
理化学研究所と文部科学省は、既存のHPCアプリケーションに対して、富岳の5~10倍以上の実効計算性能を提供することを目標としています。
AI処理については、運用開始時点で世界最高水準となる環境を整備し、少なくとも50EFLOPS以上の実行性能を目指しています。
一方、富士通は、CPUやGPUだけでなく、AIを利用したシミュレーションの高速化、低精度演算、通信、データ配置、アプリケーションなどを一体的に最適化し、用途によって富岳比100倍のアプリケーション性能を目指す構想を示しています。
富岳NEXTのすべての処理が一律に100倍速くなるという意味ではありません。
FUJITSU-MONAKA-X
富岳NEXTには、富士通が開発するCPU「FUJITSU-MONAKA-X」を搭載する計画です。
MONAKA-Xは、データセンター向けCPUとして開発されている「FUJITSU-MONAKA」の技術を継承しながら、AI処理、メモリー帯域、入出力性能などを富岳NEXT向けに強化するCPUです。
2026年5月に公開された基本設計技術報告書では、1.4ナノメートル世代の製造技術、3Dチップレット、メニーコア構成、低電圧動作、AI向け行列演算機能、GPUとの高速接続などが構想されています。
ただし、現在は基本設計段階です。これらは量産が決まった完成製品の最終仕様ではなく、今後の詳細設計や製造条件によって変更される可能性があります。
NVIDIA製GPUを組み合わせる理由
現行の富岳は、富士通製CPU「A64FX」を中心としたシステムです。
一方、富岳NEXTでは、富士通のCPUとNVIDIA製GPUを組み合わせる構成が計画されています。
現在の生成AIや大規模AI学習では、GPUが重要な役割を担っています。日本国内の技術だけですべてを開発するのではなく、CPU、システム設計、アプリケーションなど日本が強みを持つ部分を維持しながら、世界的に利用されているGPU技術を組み合わせます。
この方針は、純国産を意味する「Made in Japan」ではなく、海外企業と連携しながら日本の技術力と開発能力を維持する「Made with Japan」と説明されています。
したがって、富岳NEXTはNVIDIA依存から完全に脱却する計画ではありません。
海外製GPUを利用しながら、CPU、システムソフトウェア、アプリケーション、運用技術など、日本が主導できる部分をどれだけ維持できるかが重要になります。
富士通の事業へ波及する可能性
富士通が富岳NEXTで開発する技術は、1台のスーパーコンピューターだけに使われるとは限りません。
データセンター向けMONAKA、AIサーバー、クラウド、企業向け高性能計算基盤、省電力サーバーなどへ技術が展開される可能性があります。
一方、国家プロジェクトへ参加していることと、民間市場で継続的な利益を獲得できることは同じではありません。
MONAKAの採用企業、量産規模、製造コスト、海外販売、ソフトウェア環境などを確認する必要があります。
実現までに残る課題
富岳NEXTは2025年1月にプロジェクトを開始し、現在は研究開発の中で基本設計を進めている段階です。
今後は、詳細設計、半導体や機器の製造、新建屋の整備、システムの設置・調整、既存アプリケーションの移植などを進める必要があります。
CPUとGPUの最終搭載数、完成時の総合性能、総事業費、最終的な消費電力、半導体の製造企業、正式な運用開始日などは、現時点ですべてが確定しているわけではありません。
世界ランキングだけでなく、日本が科学技術とAIに必要な計算能力を確保し、プロジェクトで得た技術を民間産業へ展開できるかが重要です。
未来産業地図では、富岳NEXTの詳細設計、MONAKA-Xの開発、建屋整備、参加企業の役割、運用開始、民間事業への波及まで継続して追跡します。
※本記事は公開資料をもとに、技術・企業・プロジェクトの進展を整理したものです。特定企業の株式購入や金融商品の取引を推奨するものではありません。
主な根拠資料
理化学研究所「富岳NEXTについて」
https://www.r-ccs.riken.jp/fugaku-next/index.html
理化学研究所「富岳NEXT基本設計技術報告書」
https://www.r-ccs.riken.jp/fugaku-next/fugakunext_basicdesign-technicalreport_en.pdf
文部科学省「次世代計算基盤(富岳NEXT)の推進について」
https://www.mext.go.jp/content/20240823-mxt-jyohoka01-000037488_04.pdf
富士通「FUJITSU-MONAKA」
https://global.fujitsu/ja-jp/technology/research/fujitsu-monaka

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