ゲルマニウム高騰で、赤外線レンズの選択肢は変わるか
暗闇でも人や物体の温度を捉えるサーマルカメラ。そのレンズ材料として、ゲルマニウムは長く重要な位置を占めてきました。
しかし、ゲルマニウムは供給が偏在する重要鉱物です。中国は2023年8月からゲルマニウム関連品の輸出管理を強化しており、海外調達では供給の確実性と価格が以前より大きな課題になっています。
その中で、日本電気硝子は2026年9月16日、赤外線透過ガラス「FI-02」が、ドイツの赤外線センサー企業Heimann Sensorのサーマルカメラ向け広角レンズユニットに採用されたと発表しました。
これは、資源制約への単純な代替材料の登場というより、赤外線光学における材料選択肢が、実製品の段階で増え始めたことを示すニュースです。
ゲルマニウム単結晶が抱える量産性の課題
赤外線カメラのレンズには、赤外線を十分に透過させる性能が不可欠です。日本電気硝子によれば、ゲルマニウム単結晶は高い赤外線透過性能を持つ一方、プレス成形を適用しにくく、大量生産には課題があります。
一方、カルコゲナイドガラスはプレス成形に対応しやすく、非球面レンズを含む複雑な形状を量産しやすい点が利点です。ただし、従来のカルコゲナイドガラスにはヒ素やセレンを含む組成があり、環境対応や製造時の安全管理が課題となる場合がありました。
日本電気硝子がFI-02で前面に出しているのは、ここです。FI-02はヒ素・セレンなどの有害物質を使わない独自組成でありながら、高い赤外線透過率、高屈折率、低分散、プレス成形による量産性を掲げています。
120度の広角化で、実製品に採用
今回のHeimann Sensor向け広角レンズユニットでは、FI-02の高屈折率と赤外線透過特性により、従来品の最大92°×59°から120°×68°へ視野角を広げたとされています。
広い範囲を一度に捉えられることは、人検知、見守り、設備監視、セキュリティ、建物の空調制御などで重要です。赤外線センサーは可視光カメラと異なり、照明条件に依存せず、人や物体の温度分布を捉えられます。
日本電気硝子が材料を開発し、Heimann Sensorがレンズユニットに組み込む構図は、日本の特殊材料技術が海外の赤外線センシング製品へ入る最初の確認材料になります。
中国の輸出管理は、材料選定をどう変えるのか
中国の輸出管理によって、ゲルマニウムが世界から完全になくなったわけではありません。輸出許可を前提とする取引が残る一方、調達リードタイム、価格、供給の確実性は以前より意識されるようになりました。
重要なのは、FI-02を「ゲルマニウムを完全に使わない材料」と断定しないことです。日本電気硝子はFI-02について、ヒ素・セレンなどを使わないことは公表していますが、ゲルマニウムの使用有無や使用比率は明らかにしていません。
したがって現時点で言えるのは、FI-02がゲルマニウムレンズに対する代替候補、または補完的な選択肢として、量産性・広角設計・環境対応を訴求して実採用されたということです。
日本の赤外線材料は、量産市場へ入れるか
ここからは推測を含みます。
赤外線センサーの用途が、特殊な軍事・研究用途だけでなく、工場の予兆保全、ビルの省エネ、人検知、医療、車載安全、物流、防災へ広がれば、レンズには性能だけでなく量産性と規制対応が求められます。
その時、ゲルマニウム単結晶だけに依存しない光学設計を可能にする材料は、価格や調達リスクの分散に役立つ可能性があります。FI-02の価値は、単に赤外線を通すことではなく、広角レンズを成形量産し、有害物質への対応も含めて顧客の採用ハードルを下げられるかにあります。
一方で、採用数量、売上規模、他社への横展開、ゲルマニウムレンズとの総コスト比較は未公表です。今回の採用だけで日本電気硝子の業績寄与を判断することはできません。
今後の注目点
未来産業地図では、FI-02について次の変化を追跡します。
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Heimann Sensor向け製品の量産規模
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他の赤外線カメラ・センサー企業での採用
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車載、工場監視、医療、防災・セキュリティ分野への展開
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生産能力の増強や設備投資
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原材料の調達方針と供給網の変化
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日本電気硝子の開示資料における事業規模・収益性の記載
赤外線光学の世界では、素材そのものが製品の性能、量産性、供給安定性を左右します。FI-02の採用は、その材料競争が研究室から市場へ移り始めたことを示す一歩です。
参考資料
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日本電気硝子「赤外線透過ガラス」
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日本電気硝子「赤外線レンズ用の高性能赤外線透過ガラスを開発」
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丸紅経済研究所「中国の重要鉱物をめぐる規制について」
※本記事は公開資料をもとに技術・供給網・市場への影響を整理したものです。特定企業の株式購入や投資を推奨するものではありません。

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